歯医者2回戦。
麻酔の注射をして、歯を半分ほど削って、神経を抜くので、
体調を整えて、治療後2時間くらいは食事できないと思って来て
くださいと言われていた。
くださいと言われていた。
もうそれだけでものすごく行くのが嫌になり、今朝は、布団のなかで
「またお腹が痛くなって急遽、歯医者に行けないカラダにならないかな」
などと考えたけど、すでに初回の戦いで歯の一部を削られており、
仮のセメントが詰まっているので、このままでいるわけにはいかない。
それに、どうしても行かないといけない理由があった。
前回、詩を綴ってしまうほどの緊張状態で歯医者に挑んだ結果、
口のなかをライトで照らされて覗き込まれただけで、
なんだか自分が宇宙人グレイに捕獲されてこれから妊娠させられる
アメリカ人女性になったような気持ちになって身体が硬直してしまい、
よく考えたらそんなには痛くなかったんだけど、
作業のたびにいちいちものすごく痛いような感じがして、
「痛かったら言ってくださいねー」
「ぃ、ぃぁぃ」
「はい」
「ぃ…ぃとぅぁぃ」
「そうですか」
「ぃ? ぃとぅぁぃ!」
「痛いですか」
「ぃとぅぁぃ……」
「そうですか」
そりゃ歯医者は痛かったら言ってください、としか口にしておらず、
痛いからといって中断するとは約束していないわけで、
というか、よく考えたらそんなに痛くないのに騒いでいることを
読んでいたようで、こちらはほとんど半泣きのまま、治療終了。
放心状態のまま、ぼーっと会計して、そのまま、ほっぺを抑えて
とぼとぼ歩いて帰宅したのだった。
夕方になって、「でも歯医者行ったし!」と気が大きくなった私は、
調子に乗ってお寿司をぱくぱく頬張っていた。そこへ電話が。
「泉美さん、M歯科ですが……上着と自転車、忘れて帰ってません?」
あ。あああ! 完全に忘れてたあ!
どんだけショック状態だったんだ。
よくあんな遠いところから、この寒いなか歩いて帰って来たな。
よくあんな遠いところから、この寒いなか歩いて帰って来たな。
宇宙人の子を妊娠させられて、宇宙船から降ろされ、元のアリゾナの
トウモロコシ畑を呆然と歩いてしまったアメリカ人女性の気持ちがわかる。
「きょうは麻酔の注射が痛いですよ」
「ぃ、ぃぁぃ」
「痛いですよね」
「ぃ…ぃとぅぁぃ」
「痛いでしょう」
「ぃ! ぃとぅぁぃ!」
「そりゃあ痛いでしょう」
「ぃとぅぁぃ……」
「痛いでしょうねえ」
「……ぁぃ」
歯医者はドSにしか務まらない!
それともこれは歯科医の“あきらめさせる”テクニックなのか。
それともこれは歯科医の“あきらめさせる”テクニックなのか。
治療は、麻酔が効いてしまえばまったく痛みは感じなかったが、
ドリルで削られまくる道路工事感がひたすら恐ろしかった。
うっかり口を閉じたり、舌を動かしたりしたら、血しぶきが飛ぶと思い、
必死に耐えた。
必死に耐えた。
今日こそ忘れものせずに帰らなきゃ。
麻酔で口の半分がしびれたまま、自転車のカギを手に持ち、
預かってもらっていた上着をしっかり着込んで、M歯科を出た。
「あっ、泉美さーーーん!」
「はい?」
「あの、お会計、お願いしていいですか……」
忘れてた。
3回戦は、金曜日!
3回戦は、金曜日!